激変する中東秩序と和平への道のり

世界思想8月号を刊行しました。今号の特集は「激変する中東秩序と和平への道のり」です。
ここでは特集記事の一部 【 中東和平の「ロング・アンド・ワインディング・ロード」  】 についてご紹介します。

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中東和平の「ロング・アンド・ワインディング・ロード」

 

 イスラエル・パレスチナを中心とする中東和平の歴史は、まさに「長く曲がりくねった道」(ビートルズ)だ。

 
 1973年の第4次中東戦争は、ゴラン高原とシナイ半島が主戦場となり、軍事的にはイスラエルの勝利だったが政治的には停戦に持ちこんだアラブ側が勝利した。
 
 
 しかしながら、中東和平に尽力したサダトは、アラブ世界では「米国に寝返った裏切者」とされ、地域協力機構のアラブ連盟からも追放。81年には暗殺された。

 

オスロ合意(1993年・クリントン政権)

 

 1993年8月20日、米国のクリントン大統領を仲介に、急接近したPLO(パレスチナ解放機構)・アラファトとイスラエルのラビン首相との間で成立したのが「オスロ合意」である。

 ここでは、パレスチナ自治政府としてのPLOとイスラエルの相互承認、イスラエルの占領地域からの暫定的な撤退などが合意された。

米ホワイトハウスで握手を交わすイスラエルのイツハク・ラビン首相(左)とパレスチナのヤセル・アラファト議長(右)、仲介役を務めたビル・クリントン米大統領

 
 しかし、その後も和平を認めない反対勢力によるテロや軍事的衝突が相次ぎ、オスロ合意の「最終的地位協定」に向けた協議はなされていない。

 

 パレスチナでは、アラファトが2004年に死去、ナンバー2のアッバース首相がPLO議長と自治政府大統領となりイスラエルとの対話路線を築く。

 これに反発したのが、原理主義でのイスラエル打倒と全パレスチナ解放を掲げ、欧米などがテロ組織とみなす「ハマス」である。
 
 ハマスは元々、1980年代のインティファーダの際に、エジプト発祥の「ムスリム同胞団」のパレスチナ支部として、PLOとファタハに対抗する勢力として設立。イスラエルとの和平交渉に反対し、2000年の「第2次インティファーダ」に乗じて、自爆攻撃やロケット弾によるイスラエル軍と市民への攻撃を行った。
 
 一方でハマスは教育・医療・福祉など民衆へのケアを通して支持を拡大。腐敗が横行するファタハ主導の自治政府への不満の受け皿となる。ハマスがガザ地区を占拠し実効支配することでファタハ自治政府との内戦に突入したが、2014年に統一暫定政権が発足し、分裂状態は終息するも対立は継続。

 

アブラハム合意(2020年・トランプ政権)

  

 こうしたパレスチナ自治政府の混乱と「煮えきらなさ」に愛想を尽かし、他のアラブ諸国とイスラエルとの国交樹立を粛々と進めたのがトランプ前政権だった。
 
 2020年8月、トランプ米大統領が仲介し、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)、9月にはイスラエルとバーレーンの国交樹立が決まった。通称「アブラハム合意」である。

2020年9月15日、米ワシントンのホワイトハウスでトランプ前米大統領の仲介で、イスラエルのネタニヤフ首相(左から2番目)は、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンとの国交正常化合意文書に署名した。

 
 これに反発を強めたのが、パレスチナ自治政府、ゴラン高原の領有を主張するシリア、ハマス、ヒズボラなどへの軍事支援を行うイランである。彼らは「アラブの大義に対する背信」と非難したが、その思惑はそれぞれ異なり、「呉越同舟」の状態であった。
 
 それに対してイスラエルと結んだ穏健アラブ諸国は、アラブではないイランの影響力強化を警戒する点で一致していた。アブラハム合意は、いわば「イラン包囲網」だったのである。

 
 しかし、この合意の立役者であるトランプ氏が去り、バイデン政権が発足した。イスラエルとハマスの武力衝突は、新たな混乱の予兆とも見える。
 
 死を賭しても和平を切り開いたサダトやラビンらの「和平への意志」の灯火を消してはならない。

 

 

(「世界思想」8月号より )

◆2021年8月号の世界思想 特集【激変する中東秩序と和平への道のり
Part1 宗教、歴史、法解釈 複雑に絡み合う利害と思惑
Part2 中東和平の「ロング・アンド・ワインディング・ロード」 
Part3 和平の成否握る宗教間の和解 横断的連携に取り組むUPF
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