「世界思想」12月号特集【どうなる南北関係 「2国家論」浮上で揺れる朝鮮半島】から「Part3 北の「統一」放棄 戦術転換であって戦略転換ではない」をお届けします。
いかなる国・地域においても自衛のための戦術は変更される。ましてや一民族が分断状況にある地域や国においてはなおさらのこと。さらにその分断が、内発的である以上に外部要因が主な理由であればなおさらのことだろう。朝鮮半島はまさにそのすべてを内包している。
北朝鮮の極端とも見える動きは、多分に「トランプ大統領再登場」が大きな要因となっているといえるだろう。金正恩朝鮮労働党総書記は2020年の大統領選においてもトランプ氏の当選を期待していたとの指摘がある。
現状の打破は、自国だけでは極めて難しい。とりわけ国境が地続きの中国やロシアとのかかわりがあり、困難である。周辺諸国を抑え、あるいは協力を得なければならない。もちろん「自主」が軸となっての関係構築である。
トランプ氏再登場と国連の理想
国際連合の理想と現実・実態、そしてトランプ氏について述べてみる。トランプ氏の外交・安保の基本は「力による平和」だ。目指す姿は、それぞれの国や地域が自らの力で自らを守る姿である。もちろん、地理的(民族や資源、地形などを含む︶条件が実現を阻んでいる場合もあるので、一様ではないが「理念」は必要なのだ。
トランプ氏は、同盟国に対してもその基本を要求する。それゆえに同盟軽視などと批判されることがあるが、この理念を共有する国や地域との同盟関係はさらに強固なものになるだろう。自助・共助・公助なのだ。キリスト教の理念でもある。
国連がもつ平和の理念は「力による平和」を基礎としている。国連軍の存在を前提とする集団安全保障体制であるからだ。そして設立当時、米国は圧倒的な力を持っていたのだ。
国連の集団安全保障体制が機能したのは、唯一、朝鮮戦争時だったといえよう。米国の力が圧倒的だったからだといえる。常任理事国ソ連が安保理決議において棄権したのである。
朝鮮戦争は1953年7月27日、休戦となった。今、朝鮮半島は休戦協定下にあり国連軍は機能している。国連軍・後方司令部は横田基地に置かれているのだ。
国力の相対的低下とはいえ、あらゆる面で米国は圧倒的な存在感を示している。トランプ氏が「力による平和」政策を外交・安保面で進めるなかで今後、金正恩総書記との直接面談もあり得るだろうし、なによりも北朝鮮が願っている。
朝鮮半島「統一」ビジョンを構想するにおいて、最後に残された可能性は、トランプ氏の再登場だった。アメリカによる体制保証と非核化(現状を踏まえれば軍縮)交渉のテーブルが準備される望みが出てくるからである。
統一の戦略・戦術の練り直しと日米韓の連携強化が急務

2019年6月、南北の非武装地帯(DMZ)にある板門店で3回目となる首脳会談を行ったトランプ米大統領(右)と金正恩総書記
トランプ氏、金正恩氏の交渉には日本人拉致問題が上がるだろう。トランプ氏は今でも繰り返し安倍晋三氏を懐かしみ、その能力を高く評価している。安倍氏は、北朝鮮の非核化プロセスに必要な経費を日本が一定額負担することも提言していた。トランプ氏は、その遺言を無視しないだろう。
これが動き出せば「日朝平壌宣言」プロセスが動き出すことになる。宣言には核・ミサイル、日本人拉致問題が明記されていないが、文言に含まれていると解釈されてきた。
再びトランプ政権が動き出す。金正恩総書記との会談が開催される可能性がある。民主党政権下では全く望むことができなかった。北朝鮮は「今日」あるを前提に備えてきた。それが、核戦力の向上(2021年〜)だった。
交渉のハードルを上げるため、全ての力を投入してきた。ロシアへの北朝鮮の派兵の主目的は核関連技術の獲得であり、満足いくまで継続するだろう。10月31日、北朝鮮はかつてない能力を示した「火星19」の発射実験に成功した。トランプ政権の出帆前に核実験を強行する可能性も指摘されている。
「統一」は放棄できない。民族の魂がもとめている。そして平和を求めるアジアと世界の人々が求めている。今なすべきことは、新たな段階(トランプ政権発足という段階)を踏まえた、米国、日本、韓国の連携であり戦術および戦略の練り直しである。
◆2024年12月号の世界思想 特集・どうなる南北関係 「2国家論」浮上で揺れる朝鮮半島
Part1 国会独裁、サイバー内戦、混沌の韓国政治 独自の政治基盤のない尹錫悦大統領
Part2 「2つの国家論」で独自性を強める 金正恩体制が危険すぎる理由
Part3 北の「統一」放棄 戦術転換であって戦略転換ではない