トランスジェンダー急増の「不都合な真実」はヘイト?

「思想新聞」12月15日号から連載【共産主義「定点観測」・文化共産主義】の記事を紹介します。

 出版大手のKADOKAWAが心と身体の「性」が一致しない「トランスジェンダー」の若者に取材した、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」記者でジャーナリストのアビゲイル・シュライアー氏の著書の邦訳『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』(原題=“Irreversible Damage : The TransgenderCraze Seducing OurDaughters”〔取り返しのつかないダメージ〕)を、来年1月の刊行を中止すると発表した。

本当に「当事者の人権を脅かすヘイト本」なのか

 同社ではこの書籍のキャッチコピーを「気鋭のジャーナリストがタブーに挑む大問題作」と告知すると、「出版関係」というSNS(交流サイト)で「内容が刊行国の米国で既に問題視されている」「当事者の安全・人権を脅かしかねない」「差別助長につながる」といった投稿が相次いだこともあり、12月3日中止を決定した上、「題名やキャッチコピーが結果的に当事者の方を傷つけることとなった」と謝罪。だが、これは果たして本当に「トランスジェンダー当事者の人権を脅かすヘイト本」なのか。KADOKAWAの中止決定に、原著者のシュライアー氏は6日、X(旧ツイッター)に「活動家主導のキャンペーンに屈することで、検閲の力を強化することになる」と対応の拙さを指摘し、「日本から学ぶべきことが多いが、われわれは検閲的ないじめへの対処の仕方を教えることができる」とも発言した。

 実際、米国でもLGBT活動家らによる抗議が殺到し、一部量販店が販売を一時中止となるも、撤回された経緯がある。現著書の出版は2020年で、国際政治学者の島田洋一・福井県立大名誉教授はこれを原著を読んだ上で自著『腹黒い世界の常識』(飛鳥新社)で同書の内容を既に紹介しており、国内で翻訳本が刊行されれば、推薦することになっていたという。

 島田氏は「(シュライアー氏の原著は)10代の少女に与える『トランスジェンダーイデオロギー』の影響に対し、実証的な取材が行き届いた本だった。私も著書で、原書のポイント紹介に数ページほど充てている。シュライアー氏の議論はファクトに基づいている。米民主党が提出したLGBT法案の米上院審議で共和党は公聴会に公述人としてシュライアー氏を呼び、著書の内容を尋ねている。米LGBT法の成立見送りに貢献した人物ともいえる。著書は米国などでトランスジェンダーを称する少女が急増した背景について、当事者や医師、心理カウンセラーらを丹念に取材されている。思春期特有の不安や症状について、『流行り』にのっとった形で、『性自認の違和感』を訴えれば周囲の大人からヒロイン扱いされる。乳房の切除やホルモン治療を選択した結果、その先に後悔や体の不調を訴える事態が待っている。常識的な性別の捉え方を古い偏見と位置づけることで従来の家族制度を壊し、伝統社会を切り崩そうと考える人々にとっては、不都合な真実が描かれている」と評価する(産経12/9)。

アビゲイル・シュライアー氏(右)と著書“Irreversible Damage : The TransgenderCraze Seducing OurDaughters”

トランスジェンダーイデオロギーが浸透する前に警鐘

 その上で島田氏は、「トランスジェンダーイデオロギーが浸透する前に警鐘を鳴らす上でも出版すべき本だった。米国でも著者のシュライアー氏や出版社に対する『攻撃』はあったが、彼女らは反論し、耐えていた。KADOKAWAの担当編集者は努力しただろうが、その上層部が圧力に屈したのであれば、ふがいなく情けないし言語道断だ」と禁書扱いを批判(同)。

 一方、家族社会学・ジェンダー論が専門の千田有紀武蔵大教授は、「原作を読んだ上で批判している人はどれだけいるのか」「出版社側に抗議して委縮させるのは極めて卑怯だ」「(同書が)心と体の性が一致しないトランスジェンダーの状況をとらえていると評価する声もある。英タイムズ紙や英エコノミスト誌の『年間ベストブック』に選出されるなど『賛』がある。日本ではヘイト本扱いでよいのか。論争的な本だからこそ、両極の意見がある。議論が不要となれば、学問の存在意義すらなくなる」と指摘する(産経12/6)。

 取材の上で記述したのは「真実」のはず。日本は米国を超える「ジェンダー・ポリコレ」社会なのか。

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