バイデン米大統領が就任してから8カ月以上が経過したが、対北朝鮮政策の進展は全くない。
そもそもバイデン氏が、対北政策をどう進めようとしているかがよくわからない。とりわけ史上初の米朝首脳会談を実現させたトランプ前大統領と比較すると、格段の差だ。
トランプ氏は金正恩朝鮮労働党総書記に対し、北朝鮮の非核化を直接要求した。金氏は応じず、交渉は決裂したが、米国が強い態度を明確に示した点だけでも高く評価できる。また、米国に脅威が及べば、軍事攻撃も辞さないと明らかにした。核兵器で威嚇する金氏に向けて、「私の核ボタンの方が強力だ」とツイートしたこともある。
会談は決裂したが、北朝鮮につけ入る隙を与えなかっただけでも、トランプ氏の功績は大きかったといえるだろう。

2018年6月12日、シンガポールで史上初めて米朝首脳の対面がなされ、歴史的に記録される出来事となった。
それに比べると、バイデン氏の態度はあいまいだ。識者の見解としては、バイデン氏は時期を見計らっている、特段の外交カードが存在しない現状では北朝鮮の出方を待つのが得策だ、北朝鮮はコロナ禍や水害などに追われており急ぐ必要がない、といったものがある。
しかしこれらの見解は単なる憶測に過ぎないし、どれもバイデン氏を擁護するものばかりだ。特に日本のメディアではこうした見解を流す傾向が強い。
「その時になれば考える」。対北取り組む姿勢見えぬバイデン政権
思い出してみてほしい。バイデン氏が大統領選で勝利したころ、日本のメディアでは連日バイデン氏に期待する論評ばかりが紹介された。バイデン氏は冷静だ。トランプ氏と違って人格者でもある。同盟関係を重視するから日本の国益につながる。国際社会も安定する。そんなことをいう評論家ばかりが登場したのだ。
しかし実際は、バイデン氏の就任からわずか8カ月で、ミャンマーで軍事クーデターが勃発し、アフガニスタンではタリバン政権が全土を制圧した。米国は関与するどころか、撤退を自画自賛する始末である。
そもそもバイデン氏は軍縮論者である。米軍幹部が中国の状況を厳しく報告するのも、政権に危機意識を持たせるためだ。逆に言えば、そうでもしなければ政権が動かないということである。
バイデン政権の対北政策は、「朝鮮半島の完全な非核化を目指して、実用的なアプローチを通じ、外交的に解決していくこと」だという。専門家の解説によれば、トランプ氏の「ディール」ともオバマ氏の「戦略的忍耐」とも違い、実用的なアプローチを模索するということらしい。
しかし「実用的」との言葉は、「その時に考える」とも言い換えられる。要は何の策もないということだ。
こんな態度で対北問題に取り組めるのか。そもそもバイデン氏は対北問題に取り組もうと思っているのか。はなはだ疑問である。
無責任な姿勢を見せるバイデン政権は、日本にとっても懸念材料
アフガニスタンの米軍駐留には多大な犠牲が伴った。莫大な経費がかかり、多くの人命も失った。確かに撤退は米国の民意でもある。
しかし、米軍駐留の目的は米同時多発テロ(2001年)のような惨劇を再び起こさない点にあった。
米軍が撤退し、再びタリバン政権が台頭すれば、彼らは厳格なイスラム原理主義に基づき、再び惨劇を起こすのではないか。そんな懸念が解決されないまま、いわば問題を先送りにしたのが米軍撤退の本質ではないか。
再び惨劇が起きるようなら、そのときに考えればよい。そんなあいまいな考えが根底にあるのではないか。
そうだとすれば、対北政策についても、バイデン氏は無関与を決め込んでいるのだろう。北朝鮮ではコロナ禍でも水害があっても、核・ミサイル開発だけは粛々と続けられている。彼らの体制維持のためだ。その脅威は知っているが見なかったことにして、脅威が現実化したときに考える。そんな無責任な姿勢がバイデン政権の本質なのではないか。
北朝鮮の唯一の交渉相手は米国である。その点は米朝交渉における韓国の立ち位置からはっきりした。しかし北朝鮮が暴発すれば、その被害を受けるのは韓国や日本だ。
日本の安全保障体制は、米国の無力化という最悪の状況をも想定しておくべきではないか。
思想新聞【オピニオン・体制共産主義】バイデンの対北政策は、無視か無能か 9月15日号より(掲載のニュースは本紙にて)
9月15日号 毛沢東回帰で平等実現目指す中国 成長軽視の『共同富裕』路線 習思想教育は個人独裁を生む / 思想新聞号外・野党共産党批判ビラが完成! /【主張】自民党は共産主義と戦う政党たれ