「思想新聞」5月1日号から【特別寄稿】の記事を紹介します。
「AUKUS」とは何か
「AUKUS(オーカス)」は、2021年に米国主導で創設された米国、英国、オーストラリア3カ国の新たな安全保障の枠組みであり軍事同盟である。しかもこれが「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」ともいうべき集団安全保障体制なのである。
米国と英国はオーストラリアによる原子力潜水艦の開発及び配備を支援し、太平洋地域における西側諸国の軍事的プレゼンスを強化することを目指している。その背景には、近年インド太平洋地域において影響力を増す中国に対抗する意図がある。
西太平洋の覇権を狙う中国の野望
周知のとおり、中国はかつて米国に対し、太平洋を二分しハワイから西海域を中国が支配し、東海域を米国が支配することを提案した。すなわち、中国には日本の排他的経済水域(EEZ)やオーストラリア、ニュージーランドを含む広大な西太平洋全域を自国の勢力圏とする野望がある。
中国はこのような長期的野望を実現するため、空母や原子力潜水艦建造、核搭載可能な空母キラー中距離弾道ミサイルの増強をはじめ、海軍力・空軍力の強化に邁進しているのである。もし、制海権・制空権を含め西太平洋が中国の勢力圏となれば、西太平洋地域での米国の軍事的影響力が及ばなくなり、日本は軍事的に孤立する事態となる。これは日本の安全保障上きわめて危険かつ深刻な事態である。
日本のアジア版NATO「AUKUS」加盟の意義
米国防総省は2024年4月8日、米英豪国防相による共同声明を発表し、「AUKUS」の防衛力を高める先端技術開発で「日本との協力を検討している」と表明した。
日本の高い先端技術開発能力を評価するからである。具体的には、人工知能、対潜水艦戦闘能力、サイバー、極超音速兵器開発などが想定される。
日本は価値観を共有し同じ自由民主主義国である米英豪3カ国の集団安全保障の枠組み「AUKUS」に一刻も早く加盟すべきである。これは、日米安保に加え、日本の安全保障体制を重層的に強化するものであり、日本の対中抑止力を高め万全にすることは明らかだからである。
その証拠に、2024年4月8日に英経済紙「ファイナンシャル・タイムズ」(ちなみに同紙は2015年7月に日本経済新聞が買収し100%子会社化している)の「AUKUSが日本を含む参加国拡大に向けた協議を開始した」との報道を受けて、中国外務省は重大な懸念を表明し、「日本は歴史の教訓から学び、軍事・安全保障分野での言動を慎むべきだ」と牽制した。
これは中国が技術力のある日本のアジア版NATOたる「AUKUS」への加盟をいかに恐れているかの証左である。日本の加盟による「AUKUS」の強化は西太平洋における中国の野望である覇権獲得を困難にするからである。
(外交評論家・加藤成一)