イージス・アショアの配備計画が停止された。
イージス・アショアとは、超高性能のミサイル迎撃システムであるイージス・システムを、艦船ではなく陸上に配備することで、安定的、持続的な運用を図るものである。北朝鮮のミサイル技術の向上を受けて計画が決定したが、安全性もさることながら、高額なコストが問題になっていた。
イージス・アショアの費用は2基で約4500億円。維持費や実験場の設備を含めればさらに高額な予算が必要となる。
弾は1発で30〜40億円。仮に中国が保有するミサイル2000発以上が日本に向けられると、1発につき2発の発射が準備されるから2倍の4000発以上が必要となる。価格は6兆円超で、北朝鮮への対応も加えれば7兆円を超える。これだけで日本の防衛費の1・5倍となる。
配備によって他の防衛予算を圧迫するのは間違いなく、全体としての防衛力が弱体化すれば意味がない。
これで日本の安全が絶対的に確保されるのならやむを得ないとも言えるが、飛来するミサイルがきれいな弾道でなく、不規則な弾道を描けば迎撃は困難となる。
精度向上のための技術開発を続けるのは当然として、ミサイル攻撃の技術開発に比べ、迎撃の技術開発はより困難で、かつコストがかかる。計画停止は落下したブースターの制御に問題があり、民家に落下する危険があったことによるのだが、コストパフォーマンスの面からも計画停止は妥当だったのかもしれない。
「他に手段がない」米国に頼らざる得ない、日本の敵基地攻撃能力の実態
計画の停止で、敵基地攻撃能力の保有に注目が集まっている。
安倍晋三総理が記者会見で言及したためだ。歴代の政府も「他に手段がないと認められる限り」憲法9条に反しないとしており、議論の活発化が期待される。先ほど説明したように、イージス・アショアをもってしても大陸間弾道ミサイル(ICBM)の迎撃は困難なのだから、「他に手段がない」のは明らかである。
共産党は「憲法を完全に蹂躙するもの」(小池晃書記局長)などと批判するが、今のところマスコミが同調する気配はない。
北朝鮮のミサイル危機が拡大する中、日本全体の危機意識が変わってきたのではないか。
ただし、敵基地攻撃能力についても課題がないわけではない。
まず、敵基地を正確に攻撃するには、標的を定めるための十分な情報が必要となる。しかし日本の偵察衛星は、かつて「宇宙開発は平和利用に限る」と定めた経緯からかなり出遅れている。
現状では米国から情報を得る以外になく、対米関係いかんでシステムが無力化するおそれがある。
仮に米国と緊密な連携が図られ、あるいは日本独自のインテリジェンス機能が充実したとしても、中国の敵基地への攻撃は容易でない。ミサイル発射台は地下を移動し、事前の探知が困難だ。しかも基地周辺には対ミサイル防空網が張り巡らされ、それらを潜り抜けてミサイルを到達させる必要がある。現状では米軍ですら突破は困難である。
つまり日本が敵基地攻撃能力を保有したとしても、それで絶対的な安全を確保できるとはいえないのである。
中朝の対外強硬路線に備え、今こそ確固たる防衛戦略の見直しを
そんな中、日本は新たな防衛システムを開発すべきとの提案がなされている。
以上の二つの事例とは違って、ミサイルを用いずに敵ミサイルを無力化する方法である。具体的には電磁波領域の活用がある。
たとえば核爆弾を高高度(宇宙空間)で爆破することで、そこで発生する電磁波によって地上の電子機器を破壊する電磁パルス(EMP)攻撃がある。これでミサイルの制御も無力化できる。人の殺傷を目的としないから、攻撃手段としても穏当だ。
いずれにせよ、日本の国内事情をよそに、中国や北朝鮮では対外強硬路線がますます先鋭化している。
日本はイージス・アショアの配備計画停止を契機に、改めて防衛戦略を総合的に見直すべきだ。
日本ならではの最先端技術を駆使し、他国にまねできないような確固たる防衛体制の構築を期待したい。
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思想新聞【体制共産主義の脅威】 イージス・アショア配備停止:画期的な防衛戦略見直しの契機とせよ 7月1日号より(掲載のニュースは本紙にて)
7月1日号 北の真の狙いは「米朝交渉」今こそ最大限の圧力策再開を / 現地レポート・沖縄県議選を分析する:求心力低下する玉城デニー県政 / 主張 核攻撃から国民をどう守るのか