唯物思想を看破し誇りある道義国家に(2023年1月年頭挨拶)
あけましておめでとうございます。
令和5年、新しい年を迎え、皆様方におかれましても益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
昨年は暗雲立ち込める不安定な内外情勢を受け、日本の安全と繁栄を憂慮せざる得ない事象が数多展開しました。世界規模で進行した格差拡大、保護主義への回帰、コロナパンデミック、更に続出する経済制裁などは、ある意味、冷戦後のグローバリゼーション現象に歯止めをかける事象となりました。また、米国、中国、ロシアなどの大国がその影響力と共に脆弱性をも世界に晒した一年でもありました。ウクライナ戦争は勃発より10カ月が過ぎようとしていますが、収束の見通しが立ちません。
ロシアが「特別軍事作戦」と称する、この戦争の目的から見てもウクライナとロシアが互いに歩み寄る余地はなく、プーチン露大統領が核兵器使用による威嚇を仄めかすなど、今後アメリカをより直接的に関与させる形で戦闘がエスカレートして行く可能性も排除できません。ロシアは、欧米によるウクライナへの銃火器供与や、情報提供までは許容しても、部隊の直接投入は決して認めません。
一方の欧米は、戦争が通常戦力によるウクライナ国内における戦闘に留まり、大量破壊兵器の使用に至る事のないよう神経を尖らせている状況です。現状は辛うじて戦争拡大が回避されている状態ですが、憂慮すべきはこの紛争を制御する国際機構が機能していないことでしょう。
グテレス国連事務総長は、ロシアによる核兵器使用の威嚇を批判しますが、残念ながら国連安全保障理事会は機能不全を露呈しています。ウクライナ戦争を受け、欧州ではエネルギーの脱ロシア依存が進み、国際社会の厳しい制裁と監視によって、資本や技術の交流が制限される事で、ロシアの国際競争力と影響力を著しく低下させる傾向にあるものの、保有する核戦力と軍事力を背景に行動を起こす意思と能力を持っている以上、ロシアの脅威が大きく後退していく訳ではありません。
中国においては、昨秋の第20回共産党大会において、習近平総書記が前例の無い3期目の任期を認められました。人事が一新され、「之江新軍」と呼ばれる習近平色の強い側近達が要職に収まるなど、党内における権力基盤を確立、強権的統治の手法を一層加速させて行く事が予想されます。習氏は、党大会の活動報告において、「中国式現代化」という内外の統合ビジョンを提示、欧米的規範や文化から切り離した、中国の利益と価値観に合った制度や規範を国内ばかりでなく、国境の外側にも構築する意思を示しました。
また、この度の報告では「マルクス主義」が何度も強調され、国内・国際社会の「矛盾」を解決するための闘争を暴力的または非暴力的手段で試みる旨が、実に20回以上も言及されています。習氏が「中央委員会の核心的指導者」と憲法に明記され、「習近平思想」は「21世紀の新しいマルクス主義」と表現されました。更には、「共同富裕」など中国経済を市場型資本主義からマルクス主義経済へ転換する方向性が示された事で、改革開放路線と決別し、益々強硬な外交・安全保障政策が展開する事も憂慮されます。
一方で、習氏が鄧小平以来の伝統的な権力分配構造たる集団指導体制を破壊した事を受け、無謀な政策で党の将来を危うくするとして、その強硬な政治姿勢に、国内の多くの政治派閥から反感を買っているとも伝えられます。
また、「ゼロコロナ」政策に反抗する「白紙革命」に代表される激しい民衆の反発と社会騒乱のリスクも現実味を帯びています。権力の正統性を維持するためには、当然ながら力や威嚇に頼るばかりか、政治的実績が求められますが、習氏には未だそうした具体的な実績がなく、台湾統一が習政権にとり極めて大きく早急な政治課題にもなっているのです。習国家主席は台湾統一に向けて、軍事的選択肢を排除しない事を何度も公言しており、台湾海峡危機が現実味を強めています。
東欧と東アジアにおいて二つの大国が脆弱性を内包しつつ周辺秩序を脅かす現状を受け、国際社会の将来は米国とその同盟国がこれらに適正に対処できるか否かに大きく左右される局面を迎えていると言えます。冷戦後の国際秩序は米国の地政学的パワーと指導力によって形成されてきました。湾岸戦争当時、米国主導による国際協調は中露を含め、広範な国際的支持を得ると共に国連決議を取り付け、クウェートの独立は短期間で回復された事象はその象徴と言えます。
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翻って、今日ウクライナ戦争を巡ってロシアと中国は内応し、グローバルサウスなど、多くの国は米国等がロシアに課した制裁措置に歩調を合わせる事を拒むという現象があります。時代の変化が国際社会における「アメリカパワー」を相対的に小さくした事を実感させる事象とも言えます。
昨秋行われた中間選挙で、共和党は「2020年米大統領選挙の結果を受けていない候補者」を48州の選挙で300人近く擁立したとされますが、国内の分断は深刻さを増しています。米国の指導力の動静に世界が刮目しなくてはなりません。2020年7月、ポンぺオ米前国務長官は「共産主義の中国と自由世界の未来」と題した演説で、「中国が変わらない限り、世界は安全にはならない」、中国による複雑な挑戦に対峙するため新たな同盟関係を構築すべきと訴えました。自由主義同盟諸国がこれに呼応し、積極的に米国と連携を深める事で安全保障上、力の空白が生じる事を防ぐ必要があります。
日米同盟、クワッド、AUKUS、米韓同盟など同盟関係を強化・連携する事で地域秩序の基盤を強化していくべきです。北朝鮮にとってウクライナ戦争は、大量破壊兵器を放棄してはならないという教訓に確信を持たせる契機となったとされ、朝鮮半島危機への対応にも周辺国との連携が重要さを増している現状です。その点、韓国に保守政権が立った事は大いに歓迎すべきでしょう。機会を逸する事なく、地域の平和と安定のために連携を深めて行くべきです。
今日、変容して行く世界的時流を読み取り、国際社会における日本の役割において明確なビジョンを確立する事が強く求められています。大衆迎合的空気に支配され、為政者らが社会に蔓延る共産主義に代表される唯物思想の矛盾と脅威を看破出来ず、精神的価値を軽視する今日の国内情勢には憂慮の念を禁じえません。時代と地球を俯瞰し、令和日本を誇りある道義大国とするための救国愛国運動を力強く展開してまいりましょう。
2023年1月吉日
国際勝共連合会長 梶栗正義