北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が実の父である金正日総書記を批判した。
名指しではないが、世界的な景勝地として知られる金剛山の韓国との共同開発の決断を、「先任者たちの誤った政策」と断じたのだ。具体的な発言は次の通りである。
「手っ取り早く観光地でも渡してやり、座って利益を得ようとしていた前任者らの誤った政策で、金剛山はおよそ10年間放置され傷が残った」「国力が弱いころ、南に依存しようとしていた前任者らの依存政策は大きく間違っていた」(労働新聞10月23日付)
労働新聞はさらに、金委員長が、「党中央委員会の担当部署が金剛山観光地区の敷地を全て提供し、文化観光地の管理を怠り、景観に害をもたらしたことを、厳しく指摘した」とも伝えた。
韓国内では、批判の対象は金総書記ではなく、対南政策に深く関与していた張成沢氏らであるとの指摘もあがっている。
しかしこれは誤りだろう。
労働新聞に掲載される金委員長の発言は、一言一句が精査される。そして内外の反応を強く意識している。北朝鮮国内において、金日成主席と金総書記の地位は絶対的だ。その批判と誤解されうる発言をわざわざ掲載するはずがない。やはりこの発言は、金委員長が先代の政策を意図的に批判したものと捉えるべきである。
金委員長、自らの価値は先代を超えるとの自負心
韓国に統一研究院という国家機関があるが、かつてその院長を務めたキム・テウ氏はこの発言の意味について次のように語った。
「金正恩氏は、父と祖父を超えて、より偉大な指導者になりたいということだ」(朝鮮日報10月24日)
また、国家安保戦略研究院のパク・ピョングァン研究員は、次のように指摘した。
「金正恩氏が先代の政策を堂々と批判できるほど自信を示すことで、金正日式の対南依存型観光政策から脱却し、新たな観光政策を進めるということだろう」(同)
いずれも妥当な見解だろう。金委員長の権威は基本的に先代の権威に由来する。だからいかに自らの権威を高めようとも、原則として先代は超えられない。
しかし金委員長には、自らの価値は先代を超えるとの自負心がある。金委員長はトランプ米大統領との会談を実現し、今のところ核開発を進めつつ、なお米国を黙らせている。これは先代にはできなかったことだ。
他にも金委員長の言動には、先代への対抗意識を感じさせるものがある。
たとえば4月には、金日成主席が教示した党主導の工業・農業政策を削除し、現場重視を採用するための憲法改正を指示した。農村地帯を訪れ、「10年以上前(金総書記時代)に建設した米穀協同農場村が、現在の農村文化住宅の模範にはなれるわけがない」などと語った。国内で、金委員長を超える権威は存在しない。しかし金委員長の心の中では、常に父と祖父とが大きな壁となって立ちはだかってきた。これを超えるのが彼の目標であり、目的なのだ。孤独な独裁者ならではの心情である。
今回の発言は、こうした心情が如実に表れたものと見るべきだろう。
北朝鮮・金委員長は、韓国・文政権に「上から目線」
こうしてみると、韓国の文在寅大統領が金委員長に盛んに友好を呼びかけているが、応じる可能性はまずないだろう。自らを権威付ける父や祖父をも批判し始めたのに、韓国大統領と対等の関係を築く理由などない。
特に最近の北朝鮮は、韓国に対してかなり厳しい態度を示している。交渉を優位に進めるための常套(じょうとう)手段との指摘もあったが、そうではないと考えるべきだ。米国との直接の交渉が始まった今、政治的に韓国を必要とする理由はない。また経済的にも、南北の経済協力の象徴である金剛山開発を否定したのだから、独立路線を強化するつもりだ。政治的にも経済的にも韓国に利用価値はない。これで北の優位性を遠慮なく示すことができる。北に従うなら受け入れてもいい。そんな態度が今後、ますます強くなるだろう。
文氏は早く気づくべきだ。
共産主義国家の独裁者と真の友好など築けるはずがない。
共産主義思想の本質は敵対と支配にある。真の友好を目指すのであれば、まずは共産主義を捨てさせねばならない。
思想新聞主張 わが国の皇室儀式を守り抜こう 11月1日号より(掲載のニュースは本紙にて)
11月1日号 天皇陛下、内外に即位を宣言 / 【特別寄稿】2020年次期大統領選挙に向けたアメリカ情勢 / 主張 「わが国の皇室儀式を守り抜こう」