「思想新聞」9月1日号から連載【共産主義「定点観測」】の記事を紹介します。
「民商」と呼ばれる団体がある。「民主商工会」の略で、自営業者、小企業経営者、フリーランスらが加盟し、全国各地で民主商工会が結成され、600の事務所、会員16万人(公称)だが、日本共産党と共同行動をとる、共産党の影響が極めて強い団体である。そして民商の連合体は、「全国商工団体連合会」(=全商連)である。
灘民商の元事務員が共産党訴える
7月下旬、兵庫県(神戸市灘区)の灘民商の元事務員が、自分が勤める同民商を解雇され、共産党から権利制限処分の措置を受けたと、共産党を訴える裁判を起こした。灘民商不正解雇事件である。共産党に対し提訴した東郷ゆう子さんは、夫婦で10年以上にわたり共産党を支援してきた。東郷さんは3年前に入党し、共産党の県議選候補者として、県議選を戦ったが結果は落選。
しかし、東郷ゆう子さんは角本裕子さんと連名で6月30日に発表した「提訴に至った私の思い」によると、地元の共産党の味口俊之神戸市議や共産党幹部と、東郷ゆう子さんが対立していたという。その原因は、東郷さんが、灘民商の会員が持続化給付金の詐取などの違法行為が横行している不正を正したいと話したことが原因の一つだ。共産党としては、東郷さんが民商の勤務を続ければ、不正の証拠の収集などをされたら困るので、解雇したというわけだ。
現時点で、共産党や民商から、灘民商不正問題に関する公式見解は出されていない。そもそも民商の世界観は、日本共産党が理論的基礎とする科学的社会主義(マルクス・レーニン主義)に準ずる。また、民商の事務所で働いている事務員は、東郷さんのように共産党活動家がほとんどなのが実態だ。地域の党地区委員長や常任委員が、地区委員会が財政難のため勤務員として雇えなくなった場合、民商の事務所で働いたりする。
民商は、勤務しながら共産党の活動がやりやすい現場だからである。勤務時間中に、党本部や都道府県の職員が共産党のニュースを持ってきたり、仕事時間中に、明白な政治活動以外の活動、たとえば自治体の首長選挙(共産党は大衆選挙と呼ぶ)の活動、平和活動や消費税廃止活動をしたりできる。共産党規約により民商の役員や事務局内に党支部に準ずる党グループが結成され、その指示通りに民商が運営される。
民商のウェブサイトには、「(第2次大戦終了後)アメリカの占領支配のもとにおかれた日本政府は、アメリカ占領軍と一体となって、国民に重税政策を押しつけてきました。暴力的な差し押さえ、押収が強行されました」とある。今の日本の税制は「ブルジョア税制」であり、日本の支配層である米帝国主義と日本独占資本(多国籍企業、大企業や役所の管理職、地主・株主)らの利益を守るためだから従う必要がないという見解だ。公職選挙法は悪法だから従わなくてよいとの共産党の立場、間違った法律に従う必要はなく裁判に勝てばいいとの、共産党員弁護士の立場と同様なものだ。
さらに民商は、中心団体として他団体と共に、重税反対デモを毎年開催し、重要な政治局面では「閉店スト」を行う。憲法改正時に、この閉店ストなどが予想される。
メディアに無視される不当解雇事件
このままでは、今回の灘民商不当解雇事件は、ヤミに葬り去られ、忘れ去られる可能性がある。倉敷民商事件と同じ運命をたどりかねない。倉敷民商事件とは2014年、倉敷民商(岡山県)の事務員3人が税理士法違反などで逮捕・起訴されたが、共産党は、国民救援会、議員、弁護士を総動員し、共産党が参加する全国的イベントで「不当弾圧事件」だと喧伝、現時点でもみ消しに成功しかねない状況だ。税務署印など公文書を偽造行為が真実なら明らかな犯罪行為である。これを指摘する者が不当解雇など組織的隠蔽の巨悪であり、これを一部を除き大多数のメディアが無視する事実も、さながらジャニーズ性加害問題と一緒であると指摘せねばなるまい。
【思想新聞月9月1日号】日米韓首脳会談 初の単独開催 対北、対中圧力強化へ