アウティングは普遍的なプライバシー問題

 

東日本大震災から8年。被災地である岩手・宮城・福島の自治体首長経験者や専門職の識者らを中心に、「どこに相談したらいいか分からない」と悩む市民が、地域社会との結びつきが困難な課題を抱えている状況を支援し「社会的包摂」(ソーシャル・インクルージョン)を推進する一般社団法人「社会的包摂サポートセンター」を立ち上げた(代表理事=熊坂義裕・元宮古市長)。 「社会的包摂」とは、例えば貧困などの社会的リスクにより地域社会から切り離されることを「社会的排除」というが、この社会的排除を食い止め、支援の手を差し伸べようとする福祉的活動のことを意味する。 この団体が最も力を入れて取り組んでいるのは、「よりそいホットライン」という24時間アクセスできるいわば「よろず相談」。具体的には、①日常生活の中での困りごと、悩み相談②外国語での相談③性暴力やDVなど女性の相談④性別や同性愛相談⑤自殺願望の悩み⑥被災者としての悩み――などの無料電話相談を受け付けている。

 

焦点は何より、普遍的な個人のプライバシーの保護である

 

 特に今回、各メディアで報じられたのは④性別や同性愛相談で、同性愛者や性同一性障害などのいわゆるLGBT(性的少数者)の人々の、「性的志向」(恋愛対象の性別)や「性自認」(男性・女性など性的アイデンティティ)に対するに関して、本人の了解・承認なく第3者に暴露するといういわゆる「アウティング」の被害を受けたという相談が、2012年の開設以来、昨年までの6年間で少なくとも110件あったことがわかった(4月3日、日本経済新聞など共同通信による記事)。

 

 この「社会的包摂サポートセンター」によると、アウティング被害の相談のうち「深刻な相談」としては、「信頼できる人にカミングアウトしたら勝手に周囲にばらされた」「同性愛者であることを学校の友人に告白したら、『好意を寄せられて気持ち悪い』という話を広められた」などの内容だという。こうした被害から、学校や職場に行けなくなった事例もある。

 とりわけ、LGBTの「アウティング被害」については、既に2015年に一橋大学法科大学院の男子大学院生(当時25歳)が同性愛者であると同級生に暴露された後に転落死する(自殺と見られる)事案が発生。この転落死した一橋大法科大学院生の遺族が友人と大学に損害賠償を求めた訴訟は、同級生との和解が成立後に東京地裁が大学側への請求を棄却したものの、遺族側原告は控訴し、係争は継続している。

 

 確かに、アウティングと言えば、個人のプライバシーに関わる秘密を無断でさらけ出すという意味では、人権侵害に当たるのは当然だろう。

 

 ただ、アウティングの「責任」を大学にまで求めるのは反応が過剰すぎるのではないか

 

 学校のいじめも、学校や教師の責任がどれだけ問われるかは、そのケースによってかなり異なってくる。被害者・加害者が成年か未成年かでもだいぶ違ってくるだろう。

 かつて明治文壇を騒がせた島崎藤村の『破戒』は、主人公が部落出身であることをカミングアウトする問題が重要なテーマだった。

 

 

 いずれにせよ「LGBTのアウティングが問題」というより、個人のプライバシーをどう守るかという普遍的な文脈で捉えるべき問題であって、一橋大院生事件については、アウティングに特化しなくとも、広く人権を守る事案として自殺予防を考えるべきではないだろうか。

 

 

 その一方で、社会的には「アウティング」とは異なるが、それに近いようなことも措置としてやむを得ないケースも存在する。例えば重篤なウイルスや細菌の感染症だ。これは結核など、患者の個人名などは伏せられるが、措置として強制力を伴って隔離され治療を受けなければならない場合である。そうしなければパンデミック(世界的な大流行)を引き起こすからだ。

 家畜の場合、殺処分となり、感染拡大を最小限に抑える。エイズの原因であるHIVウイルスのキャリアの場合、強制性はないので行動は自由だが、不特定多数の性的接触でパンデミックを引き起こすリスクがあることは否定できない

 

 

思想新聞「体制共産主義に警戒を」4月15日号より(掲載のニュースは本紙にて)

4月15日号 自主外交、防衛、そして自主憲法を / 山梨で安保大会「家庭教育支援法」制定を/ 主張「令和」の時代的使命に目覚めよ etc

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