米大統領選挙は、民主党のジョー・バイデン新大統領就任、上下両院も民主党が過半数を制するいわゆる「トリプルブルー」の状況となり、新政権が発足した。
だが7500万票を獲得したトランプ前大統領の共和党陣営では7割が「選挙には不正があった」と考えており、ピーター・ナヴァロ前大統領通商担当補佐官は3次にわたる詳細な選挙結果報告書を提出し「トランプ勝利だった」と記述している(ナヴァロ・レポート)。
トランプ前政権は情報機関などが調査した「オバマゲート」「バイデン父子疑惑」や「インド太平洋戦略」などの機密解除を行ったとされるが、捜査機関は動く気配はない。一部で言われている裏付けも取れない陰謀論に与するものではないが、古森義久・麗澤大特別教授が「共和党の主張する選挙不正が冤罪だと言うなら民主党はなぜ積極的に疑惑を晴らそうとする努力をしないのか」と主張するスタンスは極めて説得的だ。
また、1月6日にワシントンDCに集結した150万人と言われるトランプ支持者(議会突入は一般のトランプ支持者ではなかったとのFBI捜査情報が報じられた)は決して無視できない。
にもかかわらず、バイデン氏は就任直後から次々に大統領令に署名してトランプ政権の諸政策の「ちゃぶ台返し」を始めた。
その典型例と言えるのが、本欄でも先に紹介した、大統領選直前にトランプ氏が署名した大統領令「1776年委員会」の撤回である。
伝統的な建国史観を悪と見なし、歪曲した歴史教育が進むアメリカ教育現場
1620年に清教徒の信仰の自由を求めて新大陸に渡ってきた巡礼始祖(ピルグリム・ファーザーズ)が植民し、英国本国議会の代表権もなくして課税だけされ搾取される状況に異を唱えボストン茶会事件をきっかけに英国からの独立戦争が勃発した最中の1776年に独立が宣言され、戦争にも勝利したことが、米国の伝統的な「建国史観」である。
そうした建国に携わった英雄たちを学校教育の現場で顕彰する、国旗・国歌を正しく教えるというのが、トランプ前大統領の趣旨だった。
これに対し2019年、米ニューヨーク・タイムズ紙によってこうした「正統な米国建国史観」が「黒人奴隷によって支えられていた歴史的事実を隠蔽している」とし、「建国の父祖」と言われた人たち歴代大統領、すなわち初代ワシントン、3代ジェファーソン、4代マディソン、5代モンローらは奴隷所有者の「悪人」だと。
そして結局米国の成り立ちは、黒人奴隷が最初に新大陸に上陸した1619年が新しい「建国の物語」だとする「1619プロジェクト」キャンペーンが行われ、その企画が何とピュリッツァー賞を受賞するに至った。
この「自由ではなく、人権を抑圧した原則に基づいて建国された」とする「新しい歴史観」が多くの学校教育現場で教え込まれるに至った。
分裂していくアメリカの現実を憂う
こうした状況にトランプ氏は昨年9月の国立公文書館でのスピーチで、こうした学校教育を「自国の歴史を恥ずかしく思う過激で有害なプロパガンダだ」と語った。
トランプ氏が「過激」と問題視したのは、初等中等の学校教育で「新しい建国史観」を教え込むからで、「児童虐待も同然だ」という見解も、子供を持つ親なら誰しも当然と考えるだろう。客観的に歴史の負の側面や影の部分も調べあげつらうような高等教育ではないのだ。
だが、この「1619プロジェクト」を強力に支持しているのが、新しい女性副大統領カマラ・ハリス氏その人である。
1月20日の大統領就任式後のワシントンDCで象徴的な出来事が見られた。
民主党バイデン陣営とされるアンティファやBLM集団が「目的達成しさらなる飛躍」を期して気勢を上げ星条旗を燃やしている動画がSNSでバズ(話題にな)っていたのである。
バイデン政権が「分断から融和と団結」をいくらスローガンにしても、国家と歴史の象徴である国旗を燃やすことに「寛大」で、初代大統領は黒人奴隷を所有した稀代の悪党だと教え込まれたら、自分の国に誇りなど持てずに国旗を燃やしたくなるだろう。
それこそA・ブルームの「アメリカン・マインドの終焉」どころか「アメリカの終焉」が遠からず到来するだろう。
思想新聞【オピニオン 文化共産主義】 トランプ「1776委員会」を速攻拒否した新政権 2月1日号より(掲載のニュースは本紙にて)
2月1日号 バイデン新政権、多難な船出 共和党は試練超えて再生を / よど号事件と過激派 半世紀の総括 日韓協力で人質解放/【主張】「お願い民主主義」に訣別せよ